アジアの研究者による AlphaFold の活用事例のご紹介
タンパク質は、私たちの体が病気と闘う仕組みから、生命そのものの進化まで、ほぼすべての生命活動を支える微細な機械です。タンパク質の機能は独自の 3次元(3D) 形状によって決まりますが、その構造を解明する作業は、長年にわたり多大な時間と費用を要していました。私たちは 5 年前、アミノ酸配列のみに基づいてタンパク質構造を正確に予測する AI システム AlphaFold を発表し、世界中の研究者や企業に無償で提供しています。
現在、 AlphaFold は 300 万人以上の研究者に利用されており、その 3 分の 1 以上がアジア太平洋地域に集中しています。致死的な疾患への対処から、未知の生命体の発見まで、日本を含むアジアの研究者が AlphaFold を使用して医学と科学に画期的な進歩をもたらした 5 つの事例をご紹介します。
1. 日本の温泉で新しい生命体を発見
日本の温泉における微生物を研究していた浦山 俊一助教のチームは、珍しいウイルスを発見しました。AlphaFold を使用してタンパク質構造を予測したところ、それらが広範囲に存在する、これまで知られていなかった生命の系統に属していることを確認し、分子進化の新しい分岐を明らかにしました。
2. シンガポールにおけるパーキンソン病の新しい手がかりの解明
シンガポール科学技術研究庁(A*STAR)の Jackwee Lim 氏と Yinxia Chao 氏と、国立神経科学研究所(NNI)は、 AlphaFold を使用して、神経変性疾患であるパーキンソン病に関連するタンパク質の完全な 3D 可視化を初めて実現しました。これにより、身体の免疫システムがどのようにタンパク質の機能を妨害するかが明らかになり、早期診断と標的を絞った治療法への新しい道が開かれました。
3. 韓国では、疾患の目に見えない原因を発見
韓国科学技術院(KAIST)の Ji-Joon Song 教授のチームは、DNA の編成の乱れがどのように癌やその他の疾病につながるかを研究しています。 AlphaFold により、これまで見えなかった主要なタンパク質の領域をマッピングし、隠れた相互作用部位を発見しました。Song 教授は「AlphaFold は構造生物学にとってインターネットのようなものです」と述べています。詳細はこちらからご覧いただけます。
4. 台湾でタンパク質形状の新領域を発見
台湾中央研究院の Danny Hsu 博士のチームは、AlphaFold を使用し、構造が不明なタンパク質を研究したところ、「71-トーラス結び目」という、これまでで最も複雑なタンパク質構造を予測しました。その後の研究でこの予測を検証し、AlphaFold が科学者による新たな現象の発見に役立つことが証明されました。詳細はこちらからご覧いただけます。
5. マレーシアにおける「サイレント キラー」との闘い
メリオイドーシス(類鼻疽)は、主に汚染された土壌や水中に存在する細菌 Burkholderia pseudomallei が引き起こす疾患で、毎年約 9 万人の命を奪っています。マレーシア国立大学の Su Datt Lam 博士のチームは、AlphaFold を使用して、この細菌のタンパク質がどのように生存し、拡散するのかを解明し、この「サイレント キラー」と闘うための新薬開発を加速させています。詳細はこちらからご覧いただけます。
これらのアジア太平洋地域における 5 つの事例は、AlphaFold 発表以来、科学者が発見したことの一部にすぎません。これまで見過ごされてきた疾病への取り組みから、進化の歴史の解明まで、AlphaFold は生物学研究に抜本的な変革をもたらしています。世界中の科学者コミュニティの研究を加速させ、人類が直面する最大の課題に取り組む力を与えています。
ノーベル化学賞受賞を含む AlphaFold に関する詳細については、Google Deepmind のブログをご覧ください。