Google I/O 2025: 研究が現実に

編集者注:以下は、Google I/O 2025 のスンダー ピチャイの発言を編集し、イベントで発表された内容を加えて再構成したものです。すべての発表についてはこちらをご覧ください。
例年であれば、Google I/O 開催前の数週間は、一番の見どころとなる最新モデルを基調講演で発表できるよう準備しており、発表を行うことはほとんどありませんでした。しかし Gemini の時代においては、今までで最も高性能なモデルを 3 月に発表したり、AlphaEvolve のような画期的なブレークスルーを 1 週間前に発表することも珍しくなくなりました。
Google は、最高のモデルと製品をいち早く皆様に提供すべく、これまでにないスピードで開発を進めています。

進化し続けるモデル
私が特に期待を寄せているのは、モデルの急速な進化です。進歩の指標である Elo スコアにおいて、初代 Gemini Pro モデルの発表以来、300 ポイント以上も向上しました。現在 Gemini 2.5 Pro は、LMArena の全カテゴリーでリーダーボードのトップに立っています。
モデルの進化を支えているのは、世界最高水準の Google のインフラストラクチャです。第 7 世代 TPU である Ironwood は、思考型や推論型 AI ワークロードの大規模な処理に特化して設計された初の TPU です。前世代と比較して 10 倍のパフォーマンスを実現し、ポッドあたり 42.5 エクサフロップスという驚異的な演算能力を誇ります。
TPU を含む、インフラの強みがあるからこそ、モデルの価格を削減しつつ、より高速なモデルを提供できています。Google はこれまでも、そしてこれからも、費用対効果が最も優れた最高のモデルを提供し続けます。Google はパレート フロンティアをリードするだけでなく、パレートフロンティアそのものを根本から変革しました。

世界で広がる AI の導入
より高度なインテリジェンスを、いつでも、どこでも、誰もが利用できるようになりました。かつてない速さで AI の導入が世界中で進んでいます。その進展を示す重要な指標は以下の通りです。
- 昨年、Google の製品と API 全体で月間 9.7 兆のトークンを処理していましたが、現在では 50 倍以上の 480 兆トークンを超えています。
- 700 万人以上の開発者が Gemini を使って開発を進めており、これは昨年の 5 倍にあたります。また、Vertex AI における Gemini の利用は 40 倍に急増しました。
- Gemini アプリの月間アクティブユーザー数は 4 億人以上に達しています。特に 2.5 シリーズのモデルにおいて、力強い成長と利用の活発化が見られています。Gemini アプリで 2.5 Pro を利用しているユーザーの利用率は 45% 増加しています。
研究が現実に
これらの進歩は、AI プラットフォームの変革において新しい局面に突入したことを示しています。何十年にもわたる研究が、世界中の人々、企業、コミュニティにとって、現実のものとなりつつあるのです。
Project Starline → Google Beam + 音声翻訳
数年前の I/O で、画期的な 3D 動画技術である Project Starline を発表しました。Project Starline の目標は、離れていても、まるで同じ部屋にいるかのような体験を作り出すことでした。
技術的な進歩を続け、本日、その次のステップとなる Google Beam を発表しました。これは AI を中核に据えた新しいビデオ通信プラットフォームです。Beam は、最先端の新しいビデオモデルを使って、2D ビデオ ストリームを臨場感あふれる 3D 体験に変換します。6 台のカメラと AI を使ってビデオ ストリームを結合し、3D ライトフィールド ディスプレイにレンダリングします。ミリ単位でほぼ完璧なヘッド トラッキングを、毎秒 60 フレームでリアルタイムに行います。その結果、自然で没入感のある会話体験が実現します。HP との協力により、初の Google Beam デバイスを今年後半に一部のお客様向けに提供開始する予定です。

長年にわたり、Google Meet においてもより没入感のある体験を提供してきました。その一環として、Google Meet に音声翻訳機能を近日導入します。ほぼリアルタイムで、話者の声やトーン、さらには表情まで一致させることができ、言語を超えた自然で流暢な会話を可能にする、言語の壁を打ち破る技術です。英語とスペイン語の翻訳機能は、Google AI Pro および Ultra のユーザー向けにベータ版として提供を開始し、今後数週間以内にさらに多くの言語を追加予定です。Workspace のビジネスユーザーのお客様には、今年中に早期テストとして提供予定です。

Project Astra → Gemini Live
I/O で初めて公開したもう一つの研究プロジェクトが Project Astra です。これは、周囲の状況を把握できる汎用 AI アシスタントの未来の可能性を探求するものです。Gemini Live には、Project Astra のカメラと画面共有機能を組み込み、面接の準備からマラソンのトレーニングまで、興味深い様々な方法で活用されています。この機能はすでにすべての Android ユーザーが利用できますが、本日より iOS ユーザーにも提供を開始します。
こうした機能は、 Google 検索などの製品にも導入しています。

Project Mariner → エージェント
エージェントは、高度な AI モデルとツールへのアクセスを組み合わせたシステムであり、ユーザーに代わって、ユーザーの管理下で作業を実行できるものと考えています。
その最初の一歩が初期研究プロトタイプである Project Mariner です 。これは、コンピュータを使ってウェブと対話し、ユーザーの代わりに作業をこなすエージェントの可能性を探るものです。昨年 12 月の初期研究プロトタイプの発表以来、マルチタスク機能や、「teach and repeat(一度タスクを見せると、将来的に同様のタスクの計画を学習する)」と呼ばれる学習方法などを開発してきました。この Project Mariner のコンピュータ使用機能を Gemini API を通じて開発者の皆様に提供します。Automation Anywhere や UiPath のようなテスターがすでに開発を開始しており、この夏にはより幅広い方々にご利用いただける予定です。
コンピュータ使用機能は、エージェント エコシステムをさらに発展させるために必要な幅広いツール群の一部です。たとえば、エージェント同士がスムーズに連携するためのオープンな Agent2Agent プロトコルや、Anthropic が導入した、エージェントが他のサービスにアクセスできるモデル コンテキスト プロトコル(MCP)なども挙げられます。そして本日、Gemini API と SDK が MCP ツールに対応したことを発表しました。
また、Chrome、Google 検索、そして Gemini アプリへのエージェント機能の導入を進めています。たとえば、Gemini アプリの新たな Agent Mode は、さらに多くのことをこなすのに役立ちます。たとえば賃貸物件を探している場合、Zillow などのウェブサイトで条件に合った物件を見つけたり、フィルターを調整したり、MCP を使って物件情報にアクセスしたり、さらには内見の予約もサポートします。Gemini アプリの Agent Mode の実験版は、近日一部のお客様向けに提供予定です。これは Zillow のような企業にとっても、新規顧客獲得やコンバージョン率向上に貢献します。
これは新しい分野であり、エージェントのメリットをユーザーやエコシステム全体に効果的に展開する方法を探求できることに期待しています。
パーソナライゼーションの力
研究を現実のものにする最も効果的な方法は、あなたの日常生活で役立つものにする、パーソナライゼーションです。私たちは、パーソナル コンテキストと呼ぶ概念を通じてこれを実現しようとしています。ユーザーの許可を得た上で、Gemini モデルは、プライバシーを保護し、透明性を確保したうえで、ユーザーの完全な管理のもと、Google アプリ全体で関連するパーソナル コンテキストを利用できます。
その一例が、Gmail の新しいパーソナライズされた Smart Replies です。たとえば友人が、あなたが以前に行ったことのある旅行先についてアドバイスを求めるメールを送ってきた場合、Gemini はあなたの過去のメールや、Google ドキュメントで作成した旅程などの Google ドライブ上のファイルを検索し、的確な返信を提案します。この機能はあなたがいつも使う挨拶、トーン、スタイル、さらにはよく使う言葉までを合わせ、より適切であなたらしい返信を生成します。パーソナライズされた Smart Replies は、今年後半に一部お客様向けに提供開始予定です。そして、Google 検索、Gemini などにおいてパーソナルコンテキストがどれほど役立つか、ぜひ実感してください。
検索における AI モード
Google 検索に搭載されたGemini モデルは、より高度な知能、エージェント、および好みに合わせたカスタマイズを展開するのに役立っています。
昨年の発表以来、AI による概要は 15 億人以上のユーザーに活用されており、現在では 200 の国と地域で提供しています。AI による概要のユーザーは検索結果に満足し、検索の頻度も増加しています。米国やインドのような主要市場では、AI による概要を表示するクエリの種類においての 10% 以上の成長を牽引しており、この成長率は時間とともに増加しています。
これは、過去 10 年間で Google 検索において最も成功した機能の 1 つと言えるでしょう。
この度、エンドツーエンドの AI 検索体験を求めるユーザーのために、新しい AI Mode を導入します(米国のみ)。これは Google 検索を完全に再構築するものです。AI Mode はより高度な推論により、より長く複雑なクエリに対応しております。実際、初期のテスターは従来の検索の 2 倍から 3 倍の長さのクエリを使用ししており、さらに追加の質問で深掘りすることも可能です。これらはすべて、Google 検索内の新しいタブとして利用できます。
私自身この機能を頻繁に使っており、Google 検索の利用方法が完全に変わりました。本日より米国で AI Mode をすべての人に提供できることを嬉しく思います。最新の Gemini モデルにより、 Google 検索に期待される品質と精度を維持しつつ、業界最速の応答を実現しています。そして今週から、米国で Gemini 2.5 を Google 検索に導入します。

最もインテリジェントなモデルの進化:Gemini 2.5
最も高性能な主力モデルである Gemini 2.5 Flash は、そのスピードと低コストから開発者の皆さまにも肯定的に受け止められています。新しい 2.5 Flash は、推論、マルチモダリティ、コード、長文コンテキストなどの主要なベンチマークにおいて大幅な進化を実現してており、LMArena のリーダーボードでは 2.5 Pro に次ぐ性能です。
並列思考技術を含む最先端の思考と推論に関する研究を用いた「Deep Think」と呼ぶ強化された推論モードを導入することで、2.5 Pro をさらに改良しています。

よりパーソナルに、プロアクティブに、そしてパワフルに進化した Gemini アプリ
Deep Research をよりパーソナルにし、あなた自身のファイルをアップロードできるようにしたほか、近日中に Google ドライブや Gmail と連携できるようにすることで、カスタマイズされた調査レポートを作成できるようになります。また、Canvas との統合により、ワンクリックで多言語の動的なインフォグラフィック、クイズ、さらにはポッドキャストを生成できるようになります。さらに、Canvas においてヴァイブ コーディングの採用が広がる中、Gemini とチャットするだけで、より多くの人々が機能的なアプリを構築できるようになります。
そして、特にユーザーに人気の機能である Gemini Live については、カメラと画面共有機能を iOS ユーザーを含むすべての人に無料で提供を開始し、近日中にお気に入りの Google アプリに接続して、よりシームレスなサポートを提供できるようにします。

生成メディアモデルの進化
ネイティブ オーディオ生成機能を備えた最先端ビデオモデルであるVeo 3を発表しました。また、最新かつ最も高性能な画像生成モデルである Imagen 4 も発表しました。これらはGemini アプリで利用可能であり、クリエイティビティの新しい世界を切り開きます。
これらの可能性を映画制作者に提供するために、Flow という新しいツールを発表しました。これにより、映画のようなクリップを制作したり、短いクリップを長いシーンに拡張することができます。


人々の生活を豊かにする可能性
AI は大きな可能性をもたらします。その恩恵をより多くの人々に届けるためには、開発者、技術者、問題を解決する人々にかかっています。ロボット工学から量子力学、AlphaFold、Waymo に至るまで、今日私たちが取り組んでいる研究が、明日の現実の礎となることを考えると、胸が高鳴ります。
人々の生活を向上させるこの可能性を、私は決して当たり前だとは考えていません。最近のある体験で、その思いが一層強くなりました。私は両親とサンフランシスコにいました。彼らが一番やりたがったのは Waymo に乗ることでした。Waymo がこの街の観光名所のひとつになっていることを、私はこの時知りました。私は Waymo に乗ったことがありましたが、80 代の父は本当に驚いており、私はこうした技術の進歩を全く新しい視点で見ることができました。
この体験は、私たちを鼓舞し、感動させ、未来へと前進させるテクノロジーの驚異的な力について再認識させてくれました。今後私たちが一緒に築き上げる素晴らしいものを見るのが待ちきれません。