AI を活用した乳がん検診の共同研究の結果について
Google と公益財団法人がん研究会 有明病院(がん研有明病院)は、日本における乳がんの早期診断と疾病管理の発展のために、AI を活用した乳がん検診の研究に向けて共同研究契約を 2021 年の 11 月に締結しました。それ以来、検診用マンモグラフィ画像から乳がんを特定するための機械学習モデルの有効性を検証してまいりました。
このたび、共同研究の結果から、乳がん検診の精度と検診プロセスの効率を向上させる結果が得られ、Radiology Advances 誌において発表されました。
乳がんは、日本で毎年約 9.5 万人が診断されている最も罹患率の高いがんの一つである一方で、早期発見によって、命を落とす可能性が非常に低くなることが報告されています。しかし、日本では検診率が 45% 程度と低く、改善には、実際に受診する人数を増やす施策だけでなく、それを受け入れるためのマンモグラフィ検診における医療基盤の拡大が必要となります。
今回の共同研究では、2007 年から 2020 年の間にがん研有明病院乳腺センターおよび健診センターで撮影され、個人が特定されないよう適切な匿名化を施した女性のマンモグラフィ画像を使用し、AI モデルのパフォーマンス分析を行いました。
AIによる「セカンドリーダー」
現在、日本におけるマンモグラフィのスクリーニングシステムでは 2 人の専門医による確認が推奨されています。今回の研究では、この方法と AI モデルを「セカンドリーダー」として活用する方法を比較しました。AI モデルが医師とは別にマンモグラフィ画像を確認し、AI と最初の医師の見解が一致しない場合にのみ、2人目の医師による確認を採用しました。
この結果、AI モデルを用いたスクリーニングシステムは、乳がん検出の精度を 7.6 % 向上させることがわかりました。これは、がんの早期発見の可能性とともに、治療の選択肢が増えることを意味します。
また、この研究では、AI モデルが異なる医師間の読影の一貫性を向上させるのに役立ち、結果の信頼性を平均 κ = 0.65 から κ = 0.74に向上させることも示されました。どのような医師でも、常に画像の解釈に一貫性をもつことは難しく、ばらつきを減らすことは、診断の質を個人間でより統一できることにつながります。
乳がん検診の負担軽減
また、AI を用いたアプローチは、検診プロセスの効率化にも貢献します。実際に、今回の研究から、AI を用いたアプローチは、医師による追加確認が必要なマンモグラフィの数を 71 % も大幅に削減出来る可能性が示されました。これは、医療システムへの負担を軽減し、患者への対応などを含む、医師や看護師のより効率的で効果的な働き方を可能にします。
本共同研究に関して、国立研究開発法人医薬基盤・健康・栄養研究所 理事長 中村祐輔氏は、以下のように述べています。
”乳がんの早期発見はがん死を減らすために非常に重要な課題です。しかし、現在の日本の医療従事者は「働き方改革」の中で、仕事量が減らず、過度な負担が強いられています。今回の共同研究により、人と AI が共存し、その両方の観点で医療現場に良い影響をもたらすことができる可能性が明らかとなりました。現在、AI は著しく発展をとげ、様々な分野で人の働く効率を改善する可能性を示唆しています。この共同研究結果が、技術と社会の発展を後押しし、より質の高く、効率的で、患者さんに寄り添った医療が創造されていくものと期待しています。”
また、社会医療法人博愛会相良病院病院長(前 がん研有明病院副院長乳腺センター長)大野真司氏は、以下のように述べています。
”乳がん検診の中心となるマンモグラフィ検診では、高い精度管理とともにマンモグラフィ読影の人的負担が大きな課題になっています。欧米では、すでにマンモグラフィ読影に AI を活用した実績がいくつも報告されていますが、人種間での乳房の状況やデータに異なりがあることから、日本人におけるマンモグラフィへの AI の有効性はまだ明らかになっていませんでした。本研究は多くの日本人女性を対象とした研究結果であり、乳がんマンモグラフィ検診への AI の活用によって、課題となっている精度の向上と人的負担の軽減を達成する未来のマンモグラフィ検診の姿を示すことができたものと考えます。”
乳がん検診の未来
がん研有明病院の臨床専門家と連携した本研究は、AI の活用と日本の医療現場や医療システムとの高い関連性を示すことができました。
私たちは、この AI モデルは単なる技術ではなく、医療従事者を支援し、患者の転帰を改善するためのものだと信じています。この研究が、乳がんをより早期かつ正確に発見し、女性に最良の治療機会を提供するための一歩となれば幸いです。